はじめに
本屋大賞を受賞し、話題になっていた『成瀬』シリーズ。
気にはなっていたものの、正直なところ、自分が滋賀出身じゃなかったら読んでいなかったと思う。
きっかけは、「滋賀が舞台の小説」という一点だった。
ところが三部作を読み終えた今、その印象は大きく変わった。
成瀬あかりという一人の少女を通して描かれるのは、滋賀だけの物語ではない。「自分らしく生きること」を肯定してくれる物語だった。
作品情報
| 作品名 | 成瀬シリーズ(三部作) |
| 著者 | 宮島未奈 |
| 出版社 | 新潮社 |
| ジャンル | 青春小説 / ヒューマンドラマ / ご当地小説 |
| 舞台 | 滋賀県大津市 |
| 読了方法 | Audible |
| 読了時間 | 約24時間(3作品合計) |



シリーズ一覧
『成瀬は天下を取りにいく』(2023年)
- 2024年本屋大賞受賞
- 第39回坪田譲治文学賞受賞
『成瀬は信じた道をいく』(2024年)
『成瀬は都を駆け抜ける』(2025年)
作品紹介
滋賀県大津市を舞台に、どこまでも自分らしく生きる少女・成瀬あかりと、彼女を取り巻く人々の日常を描いた青春小説シリーズ。ユーモアと温かさに満ちた物語は、多くの読者の共感を呼び、本屋大賞受賞をきっかけに全国的な人気シリーズとなった。
あらすじ
滋賀県大津市に暮らす高校生・成瀬あかり。
周囲の常識に流されず、「200歳まで生きる」「M-1に出場する」「西武大津店に毎日通う」など、誰も思いつかないような目標を次々と掲げ、自分の信じた道を突き進んでいく。
そんな成瀬の行動は、家族や幼なじみ、クラスメイト、地域の人々との出会いを通して少しずつ周囲に影響を与えていく。
三部作では、高校生から大学生へと成長していく成瀬の姿と、それぞれの人生を歩む人々との温かな交流が描かれる。
笑いあり、驚きあり、ときには胸が熱くなる。成瀬あかりという唯一無二の主人公を通して、「自分らしく生きること」の大切さを教えてくれる青春小説だ。
良かったところ
自分らしく生きる成瀬あかりの強さ
成瀬あかりは、周囲の目を気にして自分を曲げることがない。
「200歳まで生きる」「M-1に出場する」など、一見すると突飛に思える目標も、本気で挑戦する。そして、たとえ叶わなくても落ち込むのではなく、「どれか一つ叶えばいい」と前を向く姿勢が印象的だった。
自分の信念を貫きながらも、人を見下したり押し付けたりしない。その自然体な生き方に、憧れを抱かずにはいられなかった。
滋賀という街が、もう一人の主人公
この作品は、成瀬だけでなく滋賀県大津市そのものが物語を彩っている。
西武大津店、びわ湖、地元の風景や文化。滋賀で育った自分にとっては、「あ、あそこだ」と思える場面が何度もあり、物語の世界に自然と入り込めた。
もちろん、滋賀を知らなくても楽しめる作品だと思う。
でも、地元を知っているからこそ味わえる嬉しさがあったのも事実だ。
成瀬は、一人では成瀬になれなかった
三部作を読み終えて、一番心に残ったのはここだった。
幼なじみは、「あかり」という名前には”周りを照らす存在”という意味が込められていると語る。
確かに成瀬は、多くの人へ勇気や元気を与えている。
しかし、自分は少し違う見方をした。
両親、島崎、クラスメイト、地域の人々。成瀬もまた、周囲の人たちとの出会いによって支えられ、照らされていたのではないだろうか。
だからこそ、成瀬は成瀬でいられた。
Audibleだからこそ感じられた心地よさ
今回はAudibleで三部作を聴いた。
テンポの良い会話や関西の空気感が耳から自然に伝わり、成瀬たちの日常をすぐそばで見ているような感覚になった。
移動中や家事をしながらでも作品の世界に入り込めるので、普段あまり読書をしない人にもおすすめしたい。

エンドロールの向こう側
⚠️ここからは作品の内容に触れています。未読の方はご注意ください。
なぜ、成瀬あかりは生まれたのか
『成瀬三部作』を読み終えて思ったのは、「成瀬はどうしてこんなにも魅力的なのか」ということだった。
自分に正直で、信念を曲げず、大きな目標を掲げ続ける。
普通なら「変わった子」で終わってしまいそうな主人公なのに、不思議と誰もが応援したくなる。
その理由を知りたくて、作者・宮島未奈さんのインタビューを読んでみた。
成瀬は「西武大津店」から生まれた
実は宮島さんは、最初から「滋賀を舞台にした小説」を書こうと思っていたわけではない。
「女子中学生を主人公にしよう」と決め、その子が何をしたら面白いかを考えていたとき、閉店を控えた西武大津店のニュースが目に留まった。
「テレビ中継に毎日映りに行く女子中学生」という発想から、成瀬あかりは誕生したという。
たった一つのアイデアから始まった物語が、本屋大賞を受賞し、多くの読者に愛されるシリーズへ育ったことを思うと、とても感慨深い。
描きたかったのは「特別な滋賀」ではなく「日常の滋賀」
作品には、西武大津店やびわ湖、膳所など、滋賀県民なら思わず反応してしまう場所が数多く登場する。
私自身も滋賀出身なので、「あ、あそこだ」と思いながら読む時間が何度もあった。
しかし宮島さんは、大津の魅力を「観光地化しすぎていないところ」と語っている。派手な名所ではなく、そこに暮らす人たちの日常を書きたかったという。
だからこの作品は、ご当地小説でありながら、ご当地小説だけでは終わらない。
どこにでもある日常だからこそ、どこに住む読者にも届く物語になったのだと思う。
Audibleで気づいた「描写力」
今回は三部作すべてをAudibleで聴いた。
そこで驚いたのは、人物の表情や仕草、行動の描写がとても細かいことだった。
誰かが少し視線をそらす。
少し間を置いて話す。
歩き方や息づかいまで想像できるような描写が積み重なり、まるで目の前でドラマを見ているような感覚になる。
テンポの良い会話だけでなく、その合間にある細やかな描写が、登場人物一人ひとりを生きた人間として感じさせてくれた。
Audibleだからこそ、そのリズムや空気感をより強く味わえたように思う。
成瀬を照らした人たち
作品の中で、成瀬の名前「あかり」は、「周りを照らす存在」だと語られる。
もちろん、その言葉に偽りはない。
成瀬は多くの人へ勇気を与え、少しだけ世界の見え方を変えていく。
けれど、三部作を読み終えた私が一番印象に残ったのは、少し違うことだった。
成瀬もまた、周りの人たちに照らされていた。
両親、島崎、友人、大学で出会った仲間、地域の人たち。
誰か一人でも欠けていたら、今の成瀬はいなかったかもしれない。
実際、シリーズ終盤では島崎が「成瀬は誰に照らされているんだろう」と考える場面が描かれる。
成瀬は一人で輝く太陽ではない。
周りの人たちと影響を与え合いながら、その光を少しずつ大きくしていったのだと思う。
エンドロールのあとで
宮島未奈さんは、「滋賀愛がすごい」と言われることに対し、「それは成瀬なんです」と語っている。成瀬は大津を本当に愛しているけれど、自分自身と成瀬は同じではない、と。
その言葉を知ってから作品を思い返すと、成瀬は作者の分身ではなく、一人の人間として自由に生きていることがよく分かる。
滋賀出身だから読み始めた作品だった。
でも、読み終えた今では、滋賀という理由は関係なくなっていた。
成瀬あかりという一人の人間と出会えたこと。
それが、この三部作を読んで一番良かったことなのかもしれない。
まとめ
『成瀬三部作』は、滋賀県大津市を舞台にした青春小説でありながら、読み終えたあとに心へ残るのは「滋賀」という土地ではない。
「自分らしく生きること」を貫く、一人の人間の姿だった。
成瀬あかりは、自分に正直で、信念を曲げない。200歳まで生きると言い、大きな目標をいくつも掲げ、「どれか一つ叶えばいい」と笑って前へ進む。
その姿は決して完璧なヒーローではなく、努力を積み重ね、自分の信じた道を歩き続ける、一人の等身大の人間だった。
だからこそ、多くの読者が成瀬を応援したくなるのだと思う。
私は滋賀出身だから、このシリーズを手に取った。
西武大津店やびわ湖など、見慣れた景色が登場するたびに懐かしさを感じた。
けれど、三部作を読み終えた今では、そんなきっかけはどうでもよくなっている。
成瀬の魅力は滋賀という舞台を超え、誰にでも届く普遍的なものだった。
そして、一番心に残ったのは、成瀬が周りを照らす存在であると同時に、周りの人たちによって照らされてもいたことだ。
人は一人では生きていけない。
誰かを支え、誰かに支えられながら、自分らしい人生を歩んでいく。
その温かさこそが、この三部作の本当の魅力だったように思う。
私も、誰かを照らし、そして誰かに照らされるような人間でありたい。
『成瀬三部作』は、そんな小さな決意を胸に残してくれた、大切な作品になった。
あなたは、このエンドロールのあとで何を感じましたか。
作品は終わっても、その余韻はまだ続きます。
参考にした資料
※本記事は作品読了に加え、著者・制作陣へのインタビューや公式資料を参考に執筆しています。引用・事実関係は各資料をご確認ください。
インタビュー・特集
- 楽天トラベル Mytrip
「宮島未奈インタビュー|『成瀬は天下を取りにいく』誕生秘話と大津の魅力」 - 滋賀県公式サイト「宮島未奈さんインタビュー」
- 京都大学新聞「『成瀬』シリーズを語る 宮島未奈インタビュー」
